2014年1月31日金曜日

ナルニア国と子供たちの存在理由

要約
 これは、戦争の時代に起きた、ある4人の子供たちの話である。
ピーター、スーザン、エドモンド、ルーシーはロンドンの空襲から逃れるため、田舎の大きな屋敷へと疎開してきた。その屋敷で大きな衣装ダンスを見つける。末っ子のルーシーはそれに興味を持ち、中に入っていく。魔法のタンスなのか、それは雪の降る森へと通じていた。そこで街灯を見つけ、近づくと、一人のフォーンと出会う。
タムナスと名乗るそのフォーンは、ルーシーが「人間」だと知ると驚いた。ルーシーの穏やかさで、2人は徐々に打ち解けていった。ファンタジー小説であるため、読者はどんな不思議も受け止められるが、ルーシーはその世界を、私たちの世界と同じ感覚で見ているはずだから、彼女がフォーンに恐怖しないのは、驚きである。夢のような楽しい不思議には疑いなく喜んで入り込んでいけるのだろうか。2人はタムナスの家でお茶をするが、タムナスは恐ろしい白い魔女の命令により、人間のルーシーを魔女に渡さなければいけない。しかしそれに背き、彼女との友情を選んだ。タムナスはルーシーを街灯まで送り届けることにする。
無事ルーシーが屋敷の部屋に戻ってきても、他の兄姉弟は心配もしていないようだった。ルーシーがナルニアについて話しても、冗談としか受け取らず、その後、ルーシーはみじめな数日を送る。ナルニアの魔法に、まずルーシーが選ばれたという理由があるはずだから、そんなに落ち込まなくても良いはずなのだが。屋敷の中でかくれんぼをしているとき、ルーシーはナルニアの存在を確かめるため、例のタンスへむかったが、エドモンドがからかいに来たため、タンスの中へ逃げ込んだ。エドモンドも続いて入り、ルーシーを探す。しかし見つからず、ついにエドモンドまでもナルニアへ入ってしまう。そこでソリに乗った女王らしき女性と出会う。
その女性は人間のエドモンドを一度殺そうとするが、彼を利用するためソリに乗せた。エドモンドは魔法で出されたターキッシュ・ディライトを夢中で食べる。エドモンドはこの章から、どんどん欲と疑心に埋もれていくが、兄姉弟妹の中で一番人間らしい。王女はエドモンドが4人兄姉弟妹であることに興味を持ち、4人で彼女の城へ訪れるように頼む。エドモンドは彼女と別れると街灯へむかい、そこでルーシーと再開する。ルーシーからタムナスの無事と白い魔女について聞かされる。その魔女は、まさに先ほどの女王であったため、エドモンドは自分が悪の側に入り込んでいることに気付く。
2人がタンスのある部屋に戻ってくると、ピーターとスーザンを探した。ルーシーは嬉しそうに、エドモンドと一緒にナルニアにいたことを話したが、エドモンドは年下のルーシーが正しいことに不愉快であるため、彼女が作り話をしていると言った。ルーシーは裏切られ、どん底であった。ルーシーの精神状態を心配したピーターとスーザンは、後日、屋敷の主、教授に相談したが、彼はルーシーが正気であると主張した。しばらくナルニアのことを話題に出さないでいると、事はおさまっていたが、マクレディーさんが客人を連れて屋敷を案内しているとき、子供たちは彼女から離れるように屋敷内を駆け回ったが、結局例の衣装ダンスに入ってしまう。
4人で入ると、とても狭いため、奥へ進むと、ナルニアに入り込んでしまった。兄姉はルーシーが正しく、エドモンドが嘘をついていたことをようやく知る。タンスのコートを着て、森を探検し、タムナスの家に着くと彼の姿がなく、中は荒らされていた。そこで見つけた紙には、タムナスが秘密警察に連行されたことが書かれていた。エドモンドは反対したが、4人はタムナスの居場所を知っているらしい小鳥を追いかけ始めた。エドモンドは「どちらが正しい側なんだ。」(62)と魔女の方も悪くないんじゃないかと臭わせる発言をするが、自分の中での確認だったのかもしれない。
しばらく歩いた後、小鳥は飛び去ってしまう。そこがどこなのかもわからず、困っていると、木の陰から一匹のビーバーが現れる。彼はタムナスの友人らしく、4人を安全な彼の家へ連れて行くといった。空腹と疲労から、子供たちはビーバーについて行った。ビーバー夫人の待つ川にあるダムの家で、子供たちは夕食をとった。
食べ終わると、魔女に捕まったタムナスを助けるにはアスランの力が必要だと、ビーバー氏は話した。ビーバー夫妻は古い言い伝えを信じ、子供たちやアスランを待っていたという。アスランが魔女を倒し、4人の人間がナルニアの王となり、邪悪な時代を終わらせるというものだ。アスランに会うため、ストーン・テーブルに行かなければならないが、子供たちが魔女に狙われているとも教えた。一瞬の静寂の後、ルーシーがエドモンドの姿がないことに気付く。いくら探してもいなかった。ビーバー氏はエドモンドが魔女の手先であることに勘付いていた。彼は「人間には2つの見方ができる(今のこの子たちに対して悪気は無いが)。」(81)と言う。エドモンドを意識した言い方である。ここまで気にしていながら、エドモンドに注意しておけなかったのは、彼の失敗である。しかし、もしかすると子供たちを確実にアスランのところへ行かせるための策だったのかもしれない。魔女がダムに来るのも時間の問題だということを知り、急いで旅の支度を始める。
その頃エドモンドは森の中を独り歩いていた。ビーバーたちの話に耐えられず、コートも持たず急いでダムを出てきてしまっていた。日が沈むと、辺りは見えず、何度も転んだ。それでも魔女の城へ歩いて行くと、月明かりが怪しく屋敷を照らしていた。恐る恐る中庭に入ると、たくさんの石像が立っていた。屋内に入る寸前でオオカミがエドモンドの前に立ちふさがった。エドモンドが魔女に会いに来たと言うと、オオカミは彼を魔女のところまで通した。魔女はエドモンドが一人で来たことに怒り、彼が知っている情報を全て聞き出した。アスランがナルニアにいることに驚き、手下の小人にソリを用意させる。
早く出発したい子供たちだったが、ビーバー夫人が荷造りをしっかりしたため、そうはいかなかった。彼らは、魔女のソリが走れない川沿いを歩いてストーン・テーブルへむかっていった。洞窟で眠り、朝を迎えると、外から鈴の音が聞こえ、様子を見に行くと、そこには魔女ではなく、サンタクロースがいた。魔法で冬になっていたナルニアに、魔女の力が弱まったため、クリスマスが来たのだという。サンタは子供たちに武器、笛、薬、朝食のプレゼントをした。洞窟に戻り、朝食を早く済ませると、彼らはまた出発した。
ソリが準備されると、魔女はエドモンドを乗せ出発した。その際、オオカミたちにビーバー家にむかい、子供たちがいなければストーン・テーブルに行くよう指示した。外は激しく雪が降り、エドモンドにはとても辛かった。そこでようやく自分の過ちを認める。朝を迎えると、サンタから食事をもらい、パーティーをしていた集団を見つける。怒った魔女が彼らを石にする。その後も進むが、森には春が訪れていた。
ピーターたちも春になったことで、魔女の力が弱まっていると感じた。丘を登ると、眼下にナルニア国が広がっていた。その丘の中ほどにストーン・テーブルがあり、そばでアスランと仲間たちが子供たちを待っていた。ルーシーとスーザンをそこに残して、アスランはピーターを連れ、ケア・パラベルを見せた。するとスーザンの笛の音が聞こえ、テントに戻ると、1匹のオオカミが木の上に逃げるスーザンを追いかけていた。ピーターが剣を振り下ろすが、届かず、オオカミが彼に襲い掛かってくる。そのとき構えただけのピーターの剣がオオカミに刺さり、死んだ。アスランは別のオオカミを見つけ、 仲間に追跡させた。そして、ピーターに爵位を授ける。
森の暗いところで、魔女とドワーフが足を止めると、エドモンドをどうするか話し合った。その場で彼を殺すことに決めると、オオカミがストーン・テーブルからやってきた。隊長のモーグリムがピーターに殺されたことを報告すると、魔女はオオカミに仲間を集めるように指示する。エドモンドはドワーフによって木に縛られ、魔女がナイフで彼を刺そうとしたとき、オオカミを追跡していたアスランの仲間が到着し、エドモンドは救出される。朝になり、エドモンドはアスランと話した。その後、魔女がアスランにエドモンドを引き渡すよう交渉に来る。アスランは魔女と話し合い、エドモンドは助かるという結論に至った。
魔女が去ってすぐ、アスランはキャンプ地を川のそばまで移動させた。その間、アスランはピーターに、魔女に対する作戦を教えた。その夜、スーザンとルーシーは不安で眠れず、テントを出ると、アスランが森に入っていくのを見つけ、後を追った。アスランは来た道を戻っていた。しばらくして、アスランが2人に話しかける。子供たちは悲しそうなアスランの隣を歩いていった。ストーン・テーブルの直前まで来ると、アスランは2人に隠れるように命じる。そして彼は、テーブルへと進む。そこでは魔女と醜い仲間たちが彼を待っていた。彼らはアスランを縛り上げ、鬣を刈り、罵声を飛ばし、口輪を付けた。テーブルの上に乗せると、魔女はナイフを取り出し、後で彼女が子供たちや軍を襲いに行くと言い、アスランを刺した。無様なアスランを見て、悪しき者たちは恨みをぶちまけ、「これが、俺たちが怖がってたものか。」(153)と言う。エドモンドの疑心が、ここで私にも思い浮かばれる。一体どちらが善で悪か。彼らが何をしてアスランに恨まれなければならなかったのか。彼らはきっと、彼らなりの生活をしていただけではないのか。アスランが悪と決めつけるから、彼らが悪になるのではないのか。アスランは殺されて当然である。そして、殺した彼らは、虚しさを感じなければならない。

世界と心
 ナルニアには豊かな自然がある。初め、例え雪で埋もれていようとも、そこにはたくさんの木々があった。大きな川も、そびえ立つ山も。春になれば、さらにその色は増え、鮮やかに、華やかになる。現在の地球でも、この物語の子供たちがいた戦争の時代でも、このような自然を見ることはできないだろう。その上、ナルニアのある世界では、さまざまな住人がいる。それは、地球上では見られないような者たちである。神話に登場するような者、精霊や幽霊、そして魔女。話す動物たちもいる。タンスの中の世界といえど、これほどまでにナルニアの世界は広いのである。子供たちの想像を簡単に超えるような出来事が、そこでは続々と出てくる。普段では見られないような景色が、子供たちを待っているのだ。もしかすると、こちらの世界でも見られるのかもしれない。世界を自分の知る世界に閉じ込めておくのは良くないことだと、ルイスは伝えているように思える。
 ヨーロッパの古い考えで、「人間中心主義」(anthropocentric)というものがある。ヨーロッパ人たちは、人間が世界を構成しているように考えている。日本人だからとは言えないが、私にはとても気持ち悪い考えである。ルイスは、ナルニアの中でたくさんの動物や空想の生物を登場させている。人間だけではない世界を強調しているかのようだ。人間以外の生物も、人間のように世界について考えているのだと言っているのだろうか。だが、結局彼らも人間のような行動や心理を抱いているため、ただ擬人化しただけのようにも見える。
 この物語では、ルイスなりの道徳も子供たちに教えている。正義、裏切り、法、そして信じる力。エドモンドは魔女の力によって欲を引き出され、裏切り者に仕立て上げられてしまう。それでも彼は、心の底にアスランの求める正義を秘めていた。救出後、エドモンドは魔女の言葉は聞き入れず、アスランを信じていた。彼の正義は悪に対する勇気とともに、大きく成長した。もしも、読者の中やその友達がエドモンドのように悪の道を進んでいても、必ず誰かが救ってくれて、悪から抜け出せるということを示している。自分の悪は、どこかの悪のせいにして、正義をつかみ、悪を悪とみなし、最も正義らしい正義の方に行く。それが正義で善である。
 ナルニアは魔法に包まれた国である。誰もがその魔法に従う。弱い魔法は、強い者によって打ち負かされるが。魔法は絶対である。アスランでさえも、始まりの魔法には従う。自分よりも長く存在している法には、古よりの願いが込められているため、私たちは守らなければならない。そんな感じなのだろうか。世界の秩序のために法は存在し、破られれば世界が破滅へむかう。だから、みんな守ってほしい。当然であるが、ナルニア国にはルイスの理想が描かれている。
 ルーシーに注目すると、彼女はとても好奇心旺盛で、正直者、さらに信じる力が強い。さまざまなことに気づき、幼いながらも、落ち着いて世界を見渡せられる。ルーシーが最初にナルニアを見つけられたため、この物語は成り立っている。ピーターの場合、ナルニアを見つけた時点で姉弟妹を呼んだだろう。スーザンなら、夢だと決め付けて忘れ去ろうとする。エドモンドだったら、ナルニアを自分だけのものにする。他の3人では、話がうまく進まないのだ。たとえ辛い思いをしても、運命が人選し、事を最終的にいい方向へむかわせる。ルイスは、ルーシーにそう教えているのだ。
 ルイスのおかげで、私たちは世界と心を見直すきっかけを得るのだ。

文字数:5,453

引用文献
Lewis, Clive Staples. The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe. Vol.Ⅱ. New York: Harper Trophy, 2000.

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